ながはまプロジェクト

ながはまコホートにおける
Genoeconomics研究について

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2020年6月10日

広田 茂
京都産業大学
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本報告は、矢野誠経済産業研究所理事長、松田文彦京都大学医学研究科教授、関根仁博経済研究所准教授らとの共同研究に基づくものである。

Overview

遺伝子情報の活用は経済学に何をもたらすか

遺伝子情報を含んだ実証分析-Genoeonomics(遺伝子経済学)-がもたらすもの(~Benjamin, Cesarini et al. (2012)等)

1.「欠落変数」の直接の計測
 ・能力・選好等の直接的な計測が可能となることにより、実証分析の精度が向上する

2.社会・経済行動の生物学的メカニズムの解明
 ・社会・経済的行動と関係のある遺伝子が特定されれば、経済学にとって「本源的パラメータ-」としてブラックボックスだっ
 た選好や危険回避度、利他性等の生物学的基盤が解明されうる

3.操作変数としての利用
 ・操作変数:欠落変数の存在や同時決定性により説明変数と誤差項が相関するとき、OLS推定量は一致性を持たない。
  このため、説明変数と相関するが誤差項と相関しない第3の変数(操作変数)により情報を補完する
 ・遺伝子は生来のものなので、能力・選好等のアウトカム(結果)からは影響を受けず、外生的。

4.介入対象の選定
 ・例えば、読字障害のリスクのある子供に、早期に支援プログラムを手当てする

Genoeconomicsの手法

・時間選好、リスク選好、稼得能力、利他性、公平感覚といった人々の特性(表現型、フェノタイプ)が、ゲノムにおけるDNA配列のヴァリエーション(遺伝子型、ジェノタイプ)とどのように関係しているか。

・DNA配列のヴァリエーションは、構成する塩基が入れ替わっているもの、欠失しているもの、繰返し数が異なるもの等がある。代表的なものが、1つの塩基だけ入れ替わっている一塩基多型(Single Nucleotide Polymorhism, SNP)。SNPは30億の塩基対の中に約1000万カ所存在すると考えられており、これらの一部は、体質の違いや、ある特定の病気へのかかりやすさなどの表現型における個人差を生み出す要因になっているとされている。

~Benjamin, Cesarini et al. (2012)による
・個人の遺伝子型が表現型に影響を与える。
・最も単純なモデル:

・ここで、𝑦𝑖は個人𝑖の表現型(学力、時間選好等)、𝑥𝑖𝑗は個人𝑖𝑖の第𝑗SNPの対立遺伝子数、𝜖𝑖は攪乱項
・分析の対象となるSNPsを定めて(1)式を推定するのが候補遺伝子アプローチ。
・候補遺伝子以外についても予断を持たずに分析すべきとの批判。
 だがSNPsの数は膨大であり、全てを1本の重回帰式では推計できない。
・代わりに、単回帰式をそれぞれのSNPごとに推計
𝑦𝑖=𝜇+𝛽𝑗𝑥𝑖𝑗 +𝜖𝑖 (2)
・SNP相互及びSNPと誤差項が相関していなければ、𝛽𝑗はSNP𝑗のアウトカムへの影響を適切に示す。
・実際にはSNPs相互は相関しているが、相関構造はかなり明らかになっており、そうした知見も活用して推計される。
 これがゲノムワイド関連解析(Genome-Wide Association Studies, GWAS)

分析の現状

・2017年1月の第1回社会・経済的行動に関するアンケートの実施以降、データの整備を経て、主として候補遺伝子アプローチで分析。
・ALDH2やオキシトシンなどの関連遺伝子について、リスク回避度や時間選好率、ソーシャル・キャピタル関連の指標との相関を検証。
・必ずしも明確な結果が出ておらず、分析を継続中。
・追試をするためのデータが必要。

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「ながはまコホートにおけるGenoeconomics研究について」.pdf

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